『田園の詩』 NO.8 「盆 帰 省」 (1993.10.5) 田舎に住む者にとって、人が遊びにやってくるのはうれしいことです。特に、いつ もは二人きりで暮らしている老夫婦には、息子や娘が孫を連れて帰省するとなると、 もう大変です。 私も寺の住職として、何軒かの家に、毎月一回お参りしています。夏休みも近く なると、お盆の帰省客の話題で老夫婦はいつになくうれしそうです。 「お盆には、 子供たちがみんな帰っち来る。孫は全部合わせち十人じゃ」 その日の来るのを 指折り数えて待っている様子が手に取るように分かります。 はたして、私がお盆参り(当地では8月13日から)に行くと家の中は走り回る 子供たちでいっぱい。日頃は片付いているお座敷にも布団が山と積まれてい ます。まるで、保育園か布団部屋でお経をあげている気分になることもあります。 まあ、それはともかくも、盆踊りやクラス会などがあったりして、山里は大いに 賑わうのです。 しかし、それもつかの間、盆が終わると若者たちは、また都会へと戻ってしまい ます。翌月お参りにいくと、静かな老夫婦の生活が、一種の虚脱感を漂わせて、 そこにあります。 この一部始終を目にする私には、芭蕉の「おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉」 の句が思い出されてなりません。この句をもとに、私も一句。 賑やかで やがてさびしき 盆帰省 うれしさとかなしさが、楽しさと苦しみが、相反する全ての事柄は背中合わせで やってきます。田舎では、人の往来が少ないだけに、そのことが鮮明に見える のです。 ![]() 8月14日の夜、地区の初盆を迎えた家庭が集まって供養のお参りを済ませた後、 盆踊りが始まります。派手な娯楽性の強いものではなく、素朴で、先祖供養という 意味合いが強く感じられる盆踊りです。 (2008.8.14写) でも、老夫婦はいつまでもさびしがってはいられません。すぐに稲田が色づいて きます。年寄りにはきつい稲刈り作業ですが、それは又、さびしさを忘れさせて くれる仕事でもあります。 収穫の秋は、人々にこの上ない喜びを与えてくれます。天地自然に心を慰め られながら、私たち田舎人は暮らしています。 (住職・筆工) 【田園の詩NO.】 【トップページ】 |